iha place dialogue 

【第2回】「家具は行動を生む装置」

ihaを展開するミヅシマ工業代表取締役の水島良氏と、新たにihaのプロダクトディレクターに就任したsoell株式会社/NEW NORMAL代表の土井智喜氏との対談を引き続きご紹介いたします。

——公共空間を変えるうえで、ストリートファニチャーはどのような役割を果たすのでしょうか。

土井:僕は、ストリートファニチャーの本質的な価値は「アフォーダンス」にあると思っています。アフォーダンスというのは、「モノの形や存在が、人の行動を自然に引き出す」という考え方です。たとえば椅子があれば人は座りたくなるし、段差があれば腰をかけたくなる。つまり、形そのものが行為を誘発する。その力をどう設計するかが、デザインの役割だと思っています。

水島:一直線のベンチだと、人は横並びに座るしかありませんよね。でもL字になっていたり、少し角度がついていたりするだけで、自然と視線が交わる。そうすると会話が生まれる可能性が高くなる。つまり、家具の形がコミュニケーションを誘発するわけですね。

土井:そうなんです。ストリートファニチャーがあることで、「ちょっと休憩してみようかな」と思ったり、「隣の人に話しかけてみようかな」と思ったりする。公共空間は、そうした小さな行動の積み重ねで価値が生まれます。だから家具は単なる設備ではなく、行動を生む装置なんです。

水島:私は、日本の公共空間の課題は「車中心の街づくり」にあると考えています。駅前の商店街が衰退して、ロードサイドの大型店舗に人が集まるようになった。その結果、街の中心から人が減り、街が均一化してしまった。どこの街に行っても似たような景色が広がっている。
こうした状況を変えるには、人が滞在できる空間を増やすことが必要だと思っています。

土井:街の個性は、公共空間に表れますよね。駅前広場や公園にどんな家具が置かれているかで、その街の印象は大きく変わる。

水島:そのことを実感したのが、静岡市で関わった「アオバリビング」[1]という社会実験でした。市役所から駿府公園までの通りで、キッチンカーを出したり、ストリートファニチャーを配置したりして、人の流れがどう変わるかを検証しました。

静岡市・アオバリビングの様子

 

[1] アオバリビング:静岡市では、静岡都心地区を人中心の空間へとシフトし居心地がよく歩きたくなるまちなかを創出していくこと目的として、青葉シンボルロード(葵区呉服町ほか)にて交通規制を伴い、ストリートファニチャーを設置する実証実験「アオバリビング」を2024年10月に実施した。

水島:そこでストリートファニチャーを増やし、キッチンカーを出して、滞在する理由をつくることで、通りに人が集まる環境を整えました。すると面白いことが起きました。今まで使われていなかった既存のベンチにも人が座るようになったんです。

土井:それは象徴的ですね。家具そのものを変えたわけではない。

水島:そうです。ベンチは変えていない。変えたのは空間の文脈です。人が集まる理由ができたことで、家具が機能し始めた。私はそこで、ストリートファニチャーは単体ではなく、場所づくり全体の一部として機能するものだと確信しました。

土井:公共空間は、設備があれば成立するわけではありません。そこに「使いたくなる理由」があるかどうかが重要です。アフォーダンスは、その理由を形で示す手段だと思います。

水島:海外のストリートファニチャーを見ると、色や形が多様で、遊び心があります。日本はどうしても「休憩できる場所が必要だからベンチを置く」という発想になりがちです。でもそれだけでは、街の魅力はなかなか高まりません。

土井:日本の公園にはベンチはあります。つまり機能は足りている。でも、体験が不足している。そこにデザインの余地があると思います。

水島:だからihaは、単に家具を販売するのではなく、公共空間の体験を設計するブランドでありたいと思っています。家具を置くことで、人の行動が変わり、滞在が生まれ、街の価値が上がる。その循環をつくりたい。

土井:そしてストリートファニチャーは、建築ほど大きな投資をしなくても導入できるスケールです。つまり、都市を変えるための小さな起点になり得る。だからこそ市場としても伸びしろが大きいと思っています。

水島:公共空間の価値が高まれば、人が集まり、商業が活性化し、街の経済循環が生まれる。私はそれを、Good Place Makingの実践だと考えています。

土井:先ほど述べたアフォーダンスというのは単なる理論ではなく、街の未来を変える具体的な設計手法なんです。

水島:その通りです。ストリートファニチャーは、街の空気を変える力を持っていると私は思っています。